老後の資格取得は手話通訳士へ、ボランティアで地域貢献する道

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手話通訳士とは、聴覚に障害のある人と障害のない人のあいだで手話と音声言語を通訳する、厚生労働大臣認定の資格です。老後の資格取得先として関心を持つ人が増えており、受験資格に年齢の上限がないため60代や70代からの挑戦も可能です。合格率は10%台前半から16%程度と決して簡単ではありませんが、地域社会での需要は高く、ボランティアとして地域に貢献する足がかりにもなります。この記事では、手話通訳士という資格の位置づけと取得までの道のり、そして老後に手話を学んでボランティア活動を通じて地域貢献する具体的な形について、公的な統計や制度の情報をもとにまとめます。定年退職後の時間を活かして新しい専門性を身につけたい人、社会とのつながりを保ちながら誰かの役に立ちたい人にとって、老後の資格選びの参考になるはずです。

目次

老後の社会参加が生きがい実感を84.6%まで押し上げる

老後における社会参加は、本人の生きがいや満足度に直結します。内閣府がまとめた令和7年版高齢社会白書では、65歳以上で何らかの社会活動に参加した人のうち、生きがいを十分または多少感じていると答えた人が84.6%にのぼりました。この数字は、いずれの活動にも参加しなかった人と比べて23.0ポイント高く、社会とつながっているかどうかが老後の充実度を大きく左右することを表しています。

健康長寿ネットが紹介するシニアの就労・社会参加に関する分析でも、退職後の自立生活期においては「社会の中で活躍し続けたい」という欲求が重要になり、就労やボランティアといった地域活動を通じてこの欲求を満たすことが、いわゆるサクセスフル・エイジングにつながると分析しています。60歳代では約7割、70歳以上でも約5割弱の人が、就労やボランティア活動、地域活動、習い事などを通じて社会とのつながりを持ち続けているそうです。

老後に新しい資格を取得したり専門スキルを学び直したりすることは、自己満足にとどまらず、心身の健康や生活の充実度に直結する取り組みだといえます。手話通訳士という資格やスキルは、こうした社会とのつながりを実感しやすい分野の一つです。

手話通訳士は厚生労働大臣認定の資格で全国の登録者は4,375人にとどまる

手話通訳士は、手話を用いて聴覚障害のある人と障害のない人とのコミュニケーションを仲介・伝達する、厚生労働大臣が認定する資格です。試験を実施しているのは、厚生労働大臣から委託を受けた社会福祉法人聴力障害者情報文化センターで、正式名称を手話通訳技能認定試験(手話通訳士試験)といいます。この試験に合格して登録を済ませることで、はじめて手話通訳士を名乗ることができます。

厚生労働省などの資料によると、令和8年3月時点での手話通訳士の登録者数は全国で4,375人でした。一方、聴覚障害者数は平成28年(2016年)の調査で約29万7千人とされています。単純に割り算をしただけでも、手話通訳士1人あたりが担うべき聴覚障害者の数は膨大で、地域によっては手話通訳士が慢性的に不足しているのが実情です。

行政窓口や病院、裁判、教育の現場など、正確な情報伝達が強く求められる公的な場面での通訳を担えるのが手話通訳士の特徴で、近年は自治体の窓口が手話通訳士を正式に採用するケースも増えてきています。

手話奉仕員・手話通訳者・手話通訳士は到達レベルで3段階に分かれる

一口に「手話ができる人」といっても、実際には段階があります。混同されがちなので、ここで違いを説明します。

資格・段階実施主体到達目標・要件主な活動
手話奉仕員市区町村の養成講座(入門・基礎課程)入門課程で目標語彙数はおよそ300語地域の聴覚障害者支援活動やイベントでのボランティア
手話通訳者都道府県の養成講座(通訳Ⅰ〜Ⅲコース)+全国統一試験手話通訳者全国統一試験に合格実務レベルの通訳、地域の通訳派遣活動
手話通訳士厚生労働大臣認定、聴力障害者情報文化センターが試験を実施学科試験と実技試験の両方に合格して登録行政・病院・裁判など公的な場面での通訳

手話奉仕員は、まったくの初心者が最初に学ぶ入り口です。手話通訳者になると、知識面・技術面ともにはっきりとした差が生まれ、実際の通訳業務を担えるレベルの技能が求められます。その先にあるのが、国家資格に準じる公的資格である手話通訳士です。学科試験では障害者福祉の基礎知識、聴覚障害者に関する基礎知識、手話通訳のあり方、国語という4科目が出題され、実技試験では音声で出題された内容を手話で表現する聞取り通訳試験と、手話で出題された内容を音声で表現する読取り通訳試験の両方が課されます。

老後に手話の世界に足を踏み入れる場合は、いきなり手話通訳士を目指すのではなく、まずは市区町村の手話奉仕員養成講座から始め、都道府県の手話通訳者養成講座、そして手話通訳士試験へと段階を踏んでいくのが一般的なルートです。焦らずステップアップすることで、無理なく技能を積み上げられます。

手話通訳士試験は20歳以上なら年齢制限がなく合格率は10%台前半

手話通訳士試験の受験資格は20歳以上の者とされており、年齢の上限はありません。つまり60代・70代からの受験も問題なく可能です。

項目内容
受験資格20歳以上(上限なし)
受験料22,000円(税込)
学科試験の科目障害者福祉の基礎知識、聴覚障害者に関する基礎知識、手話通訳のあり方、国語
実技試験聞取り通訳試験、読取り通訳試験
合格基準全科目に得点があり、4科目の総得点のおおむね60%程度(難易度により補正)
合格率例年10%台前半から16%程度

年によっては合格率が1割を切ることもあり、しっかりとした準備が欠かせません。独学での学習も不可能ではありませんが、実技試験では実践的な通訳スキルが問われるため、スクールや自治体主催の手話講座、手話サークルでの実践練習と組み合わせて学習を進めるのが一般的です。特に読取り通訳、つまり手話を読み取って音声で表現する力は、聴覚障害のある人との会話やロールプレイの経験を積み重ねることでしか磨けない部分が大きく、独学だけで突破するのは難しいとされています。

老後の学び直しでは、時間的な余裕があることが大きな強みになります。現役世代は仕事の合間を縫って講座に通うのが大変ですが、リタイア後であれば地域の手話サークルの活動日や自治体の講座スケジュールに合わせて継続的に通いやすく、結果として着実にスキルを積み上げやすいという利点があります。

独学より講座と実践練習の組み合わせが近道

手話は語学と同じで、教科書だけでは身につきません。市区町村や都道府県の講座に加え、地域の手話サークルに参加して聴覚障害のある人と直接会話する機会を持つことが、実技試験突破への近道になります。サークルでは初心者同士の練習だけでなく、聴覚障害のある当事者とやり取りしながら実践的な表現力を磨けるため、独学だけで進めるよりも上達が早いといわれています。

65歳以上の聴覚障害者で手話を使う人はわずか4.3%

手話通訳士を取り巻く状況を数字で見ると、その必要性がよくわかります。厚生労働省の調査では、65歳未満の聴覚障害者のうち手話や手話通訳を使用している人の割合は25%である一方、65歳以上ではわずか4.3%にとどまるという結果が出ています。高齢の聴覚障害者ほど手話という手段にアクセスしにくい、あるいは手話を習得する機会がなかった世代であることがうかがえます。

高齢化が進むなかで、加齢性の難聴や中途失聴によって聴覚に障害を持つ高齢者は今後さらに増えていくと見込まれており、高齢の聴覚障害者を支える手話通訳の担い手の重要性は増していくでしょう。同世代である高齢の手話通訳士や手話ボランティアが、高齢の聴覚障害者に寄り添って支援できる点は、老後に手話を学ぶ大きな意義の一つです。世代間の感覚の近さや生活経験の共通点は、通訳の場面でも信頼関係を築くうえで大切な要素になります。

老後の手話学習は生きがいと専門的な地域貢献を同時にもたらす

老後に手話という新しい分野に挑戦することには、いくつもの意義があります。

まず、社会とのつながりを維持できる点です。前述の内閣府調査からもわかるとおり、社会活動への参加は生きがいの実感に直結します。手話サークルや養成講座に通うこと自体が、新しい人間関係を築き、定期的に外出する目的を持つことにつながります。

次に、専門性を持った形で地域に貢献できる点です。漠然と「困っている人を手伝う」というボランティアではなく、手話という専門スキルを通じて、聴覚障害のある人が直面する情報の壁やコミュニケーションの壁を直接取り除く手助けができます。これは代わりが利きにくい、専門性の高い貢献の形です。

さらに、手話の習得には単語や表現を覚えるだけでなく、相手の表情や口の動き、身振りを瞬時に読み取り、それを音声日本語に変換するという高度な情報処理が必要です。新しい言語体系を学ぶこと自体が、脳へのよい刺激になります。

加えて、人生経験や社会人としての経験を活かせる点も見逃せません。手話通訳という仕事は、手話の語彙や文法を知っているだけでは務まりません。聴覚障害のある人が置かれている状況を理解し、病院や役所、法律関係の場面など専門知識を要する通訳を正確かつ丁寧に行うには、社会人として培ってきた常識や対人関係のスキル、人生経験が武器になります。若い世代よりも、豊富な社会経験を持つシニア世代のほうが向いている場面も少なくありません。

ボランティアとしての地域貢献は手話サークルから防災訓練まで広がる

手話通訳士の資格を取得するかどうかにかかわらず、手話を学んだ人が地域で活躍できる場は数多くあります。

代表的なのが手話サークルへの参加です。多くの自治体には、地域の聴覚障害者と聴者が一緒に手話を学び、交流するサークルがあります。手話奉仕員養成講座の修了者が次のステップとして参加することが多く、実践的な手話力を磨きながら、聴覚障害のある人との信頼関係を築いていく場になっています。

次に挙げられるのが、福祉施設や地域行事での手話通訳ボランティアです。地域の福祉まつりや講演会、聴覚障害者団体が主催するイベントなどでは、手話通訳のボランティアが必要とされる場面が多くあります。一人暮らしの高齢の聴覚障害者宅への見守り訪問や、外出時の付き添いといった活動も、地域包括支援の一環として求められています。

さらに、自治体の広報動画や地域のお知らせに手話通訳を付ける取り組みが広がっており、こうした場面で協力するボランティア人材も求められています。災害時の情報保障、つまり緊急放送やお知らせを手話で伝えることの重要性も認識されており、地域の防災訓練に手話通訳ボランティアとして参加するケースも増えています。

これらの活動の多くは、手話通訳士の資格を持っていなくても、手話奉仕員や手話通訳者のレベルから十分に参加できます。まずは手話奉仕員養成講座に参加してみるという気軽な一歩から、地域貢献の輪を広げていくことができます。

学び始めは市区町村の手話奉仕員養成講座から

老後から手話の学びを始めたいと考えたとき、多くの人がまず利用するのが、市区町村が主催する手話奉仕員養成講座です。多くの自治体で無料、または低額の受講料で開催されており、初心者向けの入門課程からスタートできます。広報誌や自治体のホームページ、社会福祉協議会の窓口で募集情報が案内されていることが多いため、まずは居住地の自治体窓口に問い合わせてみるとよいでしょう。

入門課程・基礎課程を修了すると、地域の手話奉仕員として登録され、地域の聴覚障害者支援活動やイベントでのボランティアに参加できるようになります。この時点ですでに、地域貢献としての手話ボランティア活動を始めることが可能です。

さらに専門性を高めたい場合は、都道府県が主催する手話通訳者養成講座に進み、通訳Ⅰ・Ⅱ・Ⅲといった段階的なコースを修了したうえで手話通訳者全国統一試験を受験します。この試験に合格すると手話通訳者として、より専門的な通訳活動に携わることができます。

その先にあるのが、国家資格に準じる手話通訳士です。20歳以上であれば年齢に関係なく受験できるため、60代・70代からのチャレンジも十分に可能です。ただし前述のとおり合格率は10%台と低く、長期的な学習計画が必要になる点は理解しておく必要があります。

老後の手話学習で注意すべき点は継続練習と加齢による習得速度

意義の大きい取り組みである一方、老後に手話を学び始める際にはいくつか留意点もあります。

まず、手話の習得には継続的な練習が欠かせません。語学と同様、手話も使わなければ忘れてしまいます。養成講座を修了しただけで満足せず、手話サークルなどで継続的に手話に触れる機会を持ち続けることが上達の鍵になります。

また、聴力や視力、指先の動きなど、加齢に伴う身体的な変化が手話の習得スピードに影響することもあります。焦らず自分のペースで学習を進める姿勢が大切です。特に実技試験では素早い反応や正確な表現力が求められるため、若い世代と同じペースでの上達を求めすぎず、長期的な視点で取り組むことが望ましいでしょう。

さらに、手話通訳士として活動する場合、病院や裁判、行政手続きなど専門用語や高い正確性が求められる場面での通訳を任されることもあります。誤った通訳は当事者の生活や権利に直接影響を及ぼしかねないため、資格取得後も継続的な研修や勉強を続け、技能を磨き続ける姿勢が求められます。ボランティアとして気軽に関わる場合と、資格を持って責任ある通訳業務を担う場合とでは、心構えが大きく異なります。

手話通訳士の年収は200万円から370万円で兼業が現実的

老後に手話通訳士を目指す場合、収入面の実情も知っておく必要があります。手話通訳士の仕事は、聴覚障害のある人が社会参加するあらゆる場面を支えることにあります。1対1の会話の通訳から、講演会や研修会など大人数の場での通訳、行政窓口や病院、裁判所、警察、銀行などでの通訳まで、活躍の場は多岐にわたります。常勤で働く場合は、都道府県庁や市役所などの行政機関、社会福祉協議会や障害者福祉施設が主な勤務先です。

一方で、手話通訳士の平均年収はおよそ200万円から370万円程度とされ、新人であれば月給10万円前後にとどまるケースもあります。フリーランスとして活動する場合は年収100万円から300万円程度が中心で、手話通訳一本で生計を立てるのではなく、他の仕事と兼業している人も少なくありません。非正規職員・非常勤として働く人が多いのも現状で、手話通訳の仕事だけで生活を支えるのは簡単ではありません。

こうした事情から、老後に手話通訳士を目指す場合は、本業として収入を得ることよりも、年金や貯蓄などの生活基盤がある程度整った状態で専門性を活かした社会貢献をするという位置づけで考えるほうが現実的です。地域の手話通訳派遣事業に登録し、依頼があったときにボランティアや有償ボランティアとして通訳を担当するという関わり方をしているシニア世代も多く見られます。仕事として捉えるよりも、生きがいや地域貢献の手段として手話と向き合うほうが、老後の学び直しとしては続けやすいでしょう。

要約筆記は中途失聴の高齢者に手話より実用的な場面がある

聴覚障害のある人へのコミュニケーション支援は、手話だけがすべてではありません。情報保障という言葉があり、これは身体的なハンディキャップによって情報を得ることが難しい人に対して、代替手段を用いて情報を提供する取り組み全般を指します。聴覚障害の分野では、手話通訳と並んで要約筆記が重要な役割を担っています。

要約筆記とは、話されている内容を要点にまとめてその場で文字にして伝える方法で、講演会などの場では手話通訳と要約筆記の両方が用意されることも一般的になってきました。手話通訳が音声情報をできる限りもらさず伝えようとするのに対し、手書きやパソコンによる要約筆記は話すスピードに書く速度が追いつかないため、要点を絞って伝えるという特徴があります。

この点は、老後に聴覚障害者支援に関わりたいと考える人にとって重要な視点です。加齢による難聴、いわゆる中途失聴者の場合は手話を習得していないケースも多く、要約筆記や筆談のほうがコミュニケーション手段として実用的な場合も少なくありません。前述のとおり、65歳以上の聴覚障害者で手話を利用している人の割合はわずか4.3%にとどまっており、高齢の聴覚障害者を支援するうえでは、手話だけでなく要約筆記や筆談、補聴器・人工内耳の知識なども含めた幅広い情報保障の視点を持つことが役立ちます。

手話通訳士を目指す道のりの途中であっても、あるいは手話とは別に、要約筆記奉仕員の養成講座に参加するという選択肢もあります。老後の地域貢献の形として、自分の得意な分野や興味の方向性に応じて、手話と要約筆記のどちらか、あるいは両方を学ぶという柔軟な進め方もできます。

手話技能検定とユーキャン通信講座は独学志向の人への入口

いきなり自治体の養成講座に通うのはハードルが高いと感じる人には、民間資格や通信講座から始めるという方法もあります。手話の資格は大きく公的資格と民間資格に分けられ、民間資格は自分の手話能力を客観的に把握するために取得する人が多いのが特徴です。

代表的な民間資格に、NPO手話技能検定協会が主催する手話技能検定があります。7級から1級までの7段階に分かれており、まったくの初心者から上級者まで自分のレベルに合わせて挑戦できます。また全国手話検定試験は、手話の知識だけでなく面接委員との実際の手話による会話を通じて、聴覚障害のある人とどの程度コミュニケーションが取れるかを測る試験で、5級から1級・準1級まで6段階のレベルが設定されています。

自宅で無理なく学びたい場合は、通信講座という選択肢もあります。ユーキャンの「はじめての手話講座」は、ろう者の文化から日常会話までを学べる内容で、1回のレッスンが10分程度と短く、スキマ時間を使って続けられるよう設計されています。講座を修了すると、手話技能検定の4級・5級を目指せるレベルに到達できるとされています。

老後の学び直しでは、いきなり高い目標を掲げるよりも、こうした民間資格や通信講座で手話に親しみ、本格的に学びたいと思えたタイミングで、自治体の手話奉仕員養成講座や手話通訳者養成講座にステップアップしていく進め方も有効です。

都道府県の手話通訳者派遣事業に登録すると継続的な地域貢献ができる

手話を学んだ後、具体的にどのような形で地域に関わっていけるのかという点で知っておきたいのが、手話通訳者派遣事業の仕組みです。多くの都道府県・政令指定都市には聴覚障害者情報提供施設(聴覚障害者情報センターなど)が設置されており、そこが窓口となって、病院への通院や役所での手続き、学校行事、就労関係の面談といった場面に、登録された手話通訳者を派遣する事業を行っています。

例えば東京都では東京手話通訳等派遣センターが、神奈川県では神奈川県聴覚障害者福祉センターが、大阪府では大阪聴力障害者協会が派遣調整の窓口となっており、聴覚障害のある本人やその関係者が依頼を出すと、条件に合う登録手話通訳者が派遣される仕組みです。登録には、多くの場合、都道府県の手話通訳者養成講座を修了し統一試験に合格していることなどが条件になりますが、地域によっては手話奉仕員のレベルでも参加できる派遣・支援活動が用意されていることもあります。

老後に手話を学び、こうした派遣事業の登録手話通訳者として名前を連ねることは、単発のボランティアにとどまらない、継続的で実際に必要とされる地域貢献の形になります。困っている人がいたら手伝うという受け身の姿勢ではなく、地域の仕組みの一員として必要とされたときに専門性を発揮するという関わり方ができる点が、この派遣制度に登録する意義です。

難聴者はすでに1430万人で75歳以上は7割に達する

高齢期に聴覚障害を支援する意義を裏付けるデータとして、加齢性難聴の実態にも触れておきます。年齢を重ねるにつれて聞こえにくさを感じる人は着実に増えており、2022年の調査では65歳から74歳の人口に占める難聴者の比率は約15%で、55歳から64歳の約9%から大きく上昇しています。年代が上がるほど割合は高くなり、60歳代前半ではおよそ5人から10人に1人、60歳代後半では3人に1人、75歳以上になると7割以上が難聴の状態にあるとの報告もあります。

日本全体で見ると、難聴者数はおよそ1430万人、人口に占める比率は11.3%と推定されています。一方で補聴器の普及率は難聴者人口のわずか13.5%にとどまっており、欧米諸国の普及率(30から40%程度)と比べて著しく低い水準です。人工内耳の手術件数も国内で年間約1200件にのぼり、加齢による聴覚機能の低下と、それに対応する医療的・社会的支援のニーズは今後さらに拡大していくと見込まれます。

こうしたデータからも、聴覚に不自由を抱える高齢者は今後ますます増えていくと予想され、手話や要約筆記、あるいは筆談やゆっくり話すといった配慮も含めた聴覚障害への理解とコミュニケーション支援のスキルを持つ人材の重要性は、これからの地域社会でさらに高まっていくでしょう。老後に手話やコミュニケーション支援を学ぶことは、自分自身がいずれ直面するかもしれない聞こえにくさへの備えという意味でも、無駄にはならない学びといえます。

老後の資格取得は地域とのつながりを取り戻す一歩になる

老後の資格取得というと、収入を得るための資格や趣味の延長としての資格をイメージする人が多いかもしれません。しかし手話通訳士やその前段階にあたる手話奉仕員・手話通訳者という選択肢は、自己啓発にとどまらず、地域社会に実際に必要とされている専門性を身につけ、聴覚障害のある人々の生活を直接支える力になれる点で、意義深い取り組みです。

聴覚障害者数に対して手話通訳士の登録者数が大きく不足している現状、そして高齢の聴覚障害者ほど手話へのアクセスが少ないという課題を踏まえると、豊富な人生経験を持つシニア世代がこの分野に参入する意義は、今後ますます大きくなっていくはずです。

内閣府の調査でも明らかなとおり、社会活動への参加は高齢期の生きがいの実感に大きく寄与します。手話という新しい言語を学び、地域の手話サークルや養成講座に参加し、やがてはボランティアとして、あるいは手話通訳士として地域の聴覚障害者を支える。そうした一連の歩みは、老後の時間を豊かにしながら社会に価値を還元していく、地域貢献の形の一つです。

お住まいの自治体や社会福祉協議会に問い合わせて、手話奉仕員養成講座の募集情報を調べてみることから始めてみてはどうでしょうか。小さな一歩が、地域とのつながりを取り戻すきっかけになります。

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