老後の資格に相続診断士、実務経験なしから独立準備は可能か

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相続診断士は、相続がスムーズに進むよう相談者の家族構成や財産状況を整理し、専門家につなぐ役割を担う民間資格です。受験資格に制限がなく、実務経験なしでもテキストと講義動画による学習だけで挑戦できるため、老後の学び直しや独立準備の入り口として選ばれることが増えています。ただし国家資格ではなく独占業務を持たないため、資格取得だけで独立し安定した収入を得るのは簡単ではありません。この記事では、試験の中身から独立準備で押さえておくべき現実的なポイントまでをまとめました。

目次

受験料は38,500円、実務経験なしでも挑戦できる試験制度

相続診断士試験は、一般財団法人相続診断協会が認定する民間資格の試験です。受験資格に制限がなく免除制度もないため、相続分野とまったく無関係の仕事をしてきた人でも、テキストと講義動画で学習すれば挑戦できます。

試験形式はCBT方式で、多肢選択式60問を60分で解答します。合格基準は100点満点中70点以上です。受験料は38,500円(税込)で、テキスト代とWEB講義動画の視聴料、試験料、資格認定料が含まれています。不合格になった場合の再受験料は16,500円(税込)です。申し込み後は、相続診断士テキストと約5時間の講義動画の視聴IDが送られてくる仕組みになっており、追加の教材購入をしなくても学習をすぐに始められます。

難易度は、国家資格の税理士や司法書士などの士業試験と比べると格段に易しいとされています。合格率については90%前後という情報がある一方、協会が正式な数値を公表していないという情報もあるため、あくまで目安として捉えたほうがよさそうです。

資格保有者の半数以上は金融・保険業界の現役層

相続診断士の実際の保有者を見ると、保険外交員、不動産業の営業担当者、証券会社のセールス担当、金融機関の職員など、相続に関わる業務に日頃から携わっている人の取得が目立ちます。保有者の半数以上が金融・保険業界の従事者で占められているとされ、既存の顧客基盤に相続の知識を上乗せする目的で取得するケースが主流です。

老後に実務経験なしからゼロベースで取得する場合、こうした既存の実務層と違って営業基盤や顧客接点を持たない状態からのスタートになります。資格そのものは誰でも平等に取得できますが、取得後の活動のしやすさには、これまでのキャリアで培った人脈の有無が大きく影響します。

相続診断士は民間資格であり、相続に関する診断や相談は資格がなくても行うこと自体は可能な業務です。相続診断士でなければできない仕事というものは存在せず、資格が示すのはあくまで一定水準の基礎知識を持っているという証明にとどまります。

独立して稼働している相続診断士は少なく年収データもほとんどない

相続診断士として働く人の年収については、明確な統計がほとんど存在しません。資格取得後10年未満の20代で理想とされる年収は350万円を超える水準、30代で役職がつくと532万円を超える水準というデータが紹介されることもありますが、これは相続診断士単体の収入というより、金融機関や不動産会社、保険会社に勤務しながら資格を活かしている人のケースを含んだ数字と考えられます。

相続診断士だけで独立し、コンサルティング料や紹介料のみで生計を立てている人のケースは少なく、独立開業の実態を示す公的データもほとんど公表されていません。専門性が高く独占業務を持つ税理士、弁護士、司法書士、行政書士のほうが、独立後の活躍の場は広いのが実情です。老後の独立準備として相続診断士を検討する場合は、資格単体で稼ぐ発想ではなく、すでに持っているキャリアや人脈と組み合わせる前提で考える必要があります。

上級相続診断士は試験時間90分、土地評価や事業承継まで問われる

相続診断士には、さらに専門性を高めた上級相続診断士という上位資格が用意されています。相続診断士で基礎を固めたあと、上級相続診断士にステップアップするのが協会が想定するキャリアパスです。

上級相続診断士の試験時間は90分で、相続診断士の60分より長く設定されています。出題形式は〇×式や三肢択一、穴埋め方式などで構成され、土地の評価方法や会社の事業承継、遺産分割の具体的な事例といった、より専門的で実践的な内容が問われます。単なる知識の暗記だけでなく、複雑な相続案件に対応するための実務的な視点が求められる試験です。

老後の独立準備として相続診断士を取得したあと、実際に相談業務や紹介業務を担っていくのであれば、相続診断士のみで止まらず上級相続診断士まで学習を進めておくことで、対応できる相談の幅と説得力が増します。

更新料は2年で16,500円、上級相続診断士は月会費制

相続診断士の資格には有効期限があり、2年ごとの更新が必要です。更新には更新テストへの合格が必要で、更新料は2年ごとに16,500円(税込)、1年あたりに換算するとおよそ8,250円の維持費がかかります。有効期限を過ぎても6ヶ月以内であれば更新手続きは可能ですが、未更新の期間が3ヶ月以上経過すると、別途5,500円(税込)の事務手続き費用が発生します。

一方、上級相続診断士は月会費制が採られており、更新テストのような形での更新は不要とされています。ただし月々の会費が発生する仕組みのため、長期的に見た維持コストの性質は相続診断士と上級相続診断士とで異なります。下の表に費用面の違いをまとめました。

項目相続診断士上級相続診断士
受験料38,500円(税込、再受験16,500円)別途受験が必要
試験時間60分90分
出題内容基礎知識中心土地評価・事業承継など実務寄り
更新方式2年ごとの更新テスト、更新料16,500円月会費制、更新テストなし

老後の年金生活や限られた収入の中で資格を維持していくことを考えるなら、こうした継続コストも取得前に把握しておいたほうがよさそうです。

学習期間は初学者で3〜6ヶ月が目安

相続診断士試験は自主学習が基本です。受験料の支払い後に届くテキストと約5時間の講義動画、そして過去問題や練習問題の3つを軸に学習を進めます。標準的な流れとしては、まずテキストで全体像を把握し、次に講義動画で重要ポイントの補足解説を聞き、最後に過去問題や練習問題を繰り返し解いて出題傾向をつかみ、知識を定着させる形が推奨されています。

学習期間の目安は、相続に関する予備知識がない初学者でおよそ3〜6ヶ月、日頃から相続関連の業務に従事している人であれば1〜2ヶ月程度です。老後の資格取得として取り組む場合、仕事や家事と両立しながら学習時間を確保する必要があるため、初学者の目安である3〜6ヶ月を一つの計画の基準にしておくとよいでしょう。受験料に教材費が含まれているため、追加の教材購入をしなくても申し込み後すぐに学習を始められる点も、実務経験なしから始める人には取り組みやすいポイントです。

独立準備で失敗しやすいのは資格だけで仕事が来るという誤解

老後に資格を取得して独立を目指す場合、相続診断士に限らず共通して見られる失敗の原因があります。一つは、事前の情報収集や事業計画の不足です。開業に必要な資金、想定される競合、見込み客の規模などを十分把握しないまま独立してしまうと、想定外のトラブルに直面しやすくなります。もう一つは、資格さえ取得すれば仕事が舞い込んでくるという誤解です。専門職の独立では、資格そのものよりも集客力やサービス設計力が成否を分けるとされ、同業者との競争が激しい分野では価格競争に巻き込まれ、安定した収益を確保しにくくなるケースもあります。

相続診断士は独占業務を持たない民間資格であるため、この資格だけでは稼げないというリスクが特に当てはまりやすい分野です。老後の独立準備として検討するのであれば、退職金や年金収入といった生活基盤がある中で、無理のない範囲から小さく始め、相談対応や情報発信を重ねながら少しずつ実績と人脈を積み上げていく進め方が、リスクを抑えるうえで現実的です。開業資金を大きく投じて一気に事務所を構えるのではなく、まずは副業的な立ち位置で経験を積み、手応えを見ながら活動の規模を広げていくステップが望ましいといえます。

独立準備の土台は税理士・司法書士・弁護士とのネットワーク構築

相続診断士は独占業務を持たない民間資格であるという前提を忘れないことが重要です。相続税の申告は税理士、不動産の相続登記は司法書士、遺産分割で争いが生じた場合の法的手続きは弁護士というように、専門性の高い法律行為や税務行為はそれぞれの国家資格者の独占業務となっています。相続診断士ができるのは、あくまで相談者の状況整理と、適切な専門家へのつなぎ役です。

したがって独立準備の段階から、税理士や司法書士、弁護士、行政書士といった国家資格者とのネットワークを構築しておくことが欠かせません。単独ですべてを完結させようとするのではなく、窓口役やコーディネーター役としてのポジションを明確にすることが、実務経験なしからのスタートでも成立しやすい戦略です。相続診断協会自体も、弁護士や税理士、司法書士、土地家屋調査士など各分野の専門家との提携モデルを整備しており、相続診断士が診断で見つけた課題を提携先の専門家に橋渡しして問題解決につなげる仕組みが用意されています。

集客はセミナー講師や終活イベントへの参加から始まる

不動産業や保険業、金融機関での勤務経験がある人であれば、これまでの顧客基盤や業界内のつながりを活かして相続相談の窓口になれます。しかし全くの異業種から実務経験なしで相続診断士を取得した場合、資格を取っただけでは相談者は集まりません。

相続診断士に合格すると、協会からセミナーの受講や、講師として活動するための講師養成講座を受けることができ、名刺やプロフィールに相続診断士のロゴマークを表示することが認められます。個人で活動する場合は、協会の公式サイトの検索ページに登録され、外部から相続診断士として検索してもらえる仕組みも用意されています。これらは最初の顧客接点をつくる足がかりとして活用できますが、あくまで入口にとどまる点は冷静に見ておく必要があります。実際の現場では、相続診断士の資格だけでは相続トラブルへの具体的な解決策の提案や、踏み込んだ相談対応が難しいという指摘もあります。セミナー講師としての活動、地域の終活イベントへの参加、士業事務所との提携、SNSやブログでの情報発信など、地道な信頼構築の積み重ねが独立準備には必要になります。

老後も働きたい人は約4割、社会参加と生きがいは結びつく

内閣府の調査によれば、60歳以上のおよそ7割が「できる限り働きたい」と回答しており、定年後も何らかの形で社会と関わり続けたいというニーズは強く出ています。生きがいを「十分感じている」と回答した高齢者は22.9%、「多少感じている」が49.4%で、合計72.3%が何らかの生きがいを感じていると回答しています。過去1年間に社会活動に参加した人に限ると、生きがいを「十分感じている」と回答した割合は30.1%まで上昇しており、社会とのつながりを持ち続けることが老後の生きがいと結びついていることがうかがえます。実際、60歳以上で収入のある仕事をしている人はおよそ4割(37.3%)にのぼるとされ、老後も働き続けること自体が生活の糧だけでなく生きがいづくりの一環になっています。

シニア世代に人気の資格としては、FP(ファイナンシャル・プランニング技能士)や宅地建物取引士が挙げられます。宅建士のように独占業務を持つ資格であれば、定年後の再就職でも比較的高い収入が期待できるとされています。ほかにも、マンション管理士、社会保険労務士、日本語教師、簿記、介護支援専門員など、それまでの社会人経験や年齢の近さを強みにできる資格が人気を集めています。相続診断士は、こうした資格の中でも相続という一つのテーマに特化している点が特徴です。

FPや宅建とのダブルライセンスで相乗効果を作れる

相続診断士を独立準備の軸に据えるのであれば、他の資格と組み合わせるダブルライセンスの発想が有効です。特に相性がよいとされるのがFPとの組み合わせです。FPと相続診断士をあわせて取得すれば、相続トラブルを未然に防ぐ相続対策の専門家としてアピールできるだけでなく、相続にまつわるお金の悩み全般まで一体的に解決できる人材として差別化を図れます。

不動産分野で活動したい場合は、宅建士との組み合わせも効果的です。宅建の知識があれば、相続した不動産の売却や活用に関する相談で、資金計画だけでなく物件そのものの理解も含めて対応できるようになります。宅建士とFPを両方持つ人であれば、そこに相続診断士を加えることで、住宅ローンや資産運用の提案から相続発生後の不動産の扱いまで、ライフプラン全体を見据えた提案が可能になります。ダブルライセンスやトリプルライセンスによって専門領域を掛け合わせることは、活躍できるフィールドを広げ、市場価値を高めるうえで有効な手段とされています。

不動産業界では、相続した空き家や実家の売却提案、名義変更のサポートといった場面で相続診断士の知識が活用されています。保険業界では、生命保険を活用した相続対策の提案時に相続診断士としての基礎知識が説得力を高める役割を果たします。金融機関や葬儀業界においても、顧客が相続に関する不安を抱えているタイミングで初期相談を受け、必要に応じて士業専門家につなぐコーディネーター役として相続診断士の知識が活用されています。実務経験がないまま老後に相続診断士を取得する場合も、こうした特定の業界知識と資格の掛け合わせを意識し、自分がこれまで培ってきた経験や人脈のどの部分と組み合わせられるかを考えることが、独立準備を現実的なものにする鍵になります。

相続資産は2040年に51兆円規模まで拡大する見込み

相続診断士を老後のセカンドキャリアとして検討するうえで欠かせないのが、相続をめぐる市場そのものが今後どう推移するかという視点です。相続情報サイトを運営する株式会社鎌倉新書が2025年に発表した相続手続きに関する実態調査によれば、これまでに寄せられた相続相談の累計件数は25万件を超えています。

資産規模の面でも拡大が見込まれています。相続資産は現時点で約46兆円とされますが、2030年には48.8兆円、2035年には50.4兆円、2040年には51.0兆円まで拡大していくと推計されています。2040年時点の個人金融資産残高は約2,760兆円に達すると見込まれ、そのうち70歳以上の高齢者世帯が約1,330兆円と、全体のおよそ5割弱を保有するとみられています。

65歳以上の高齢者のうち、子どもが同じ市区町村より離れた場所で暮らしている割合も増加傾向にあります。2010年から2022年にかけて、こうした離れて暮らす親子は男性で207万人から300万人へ、女性で221万人から332万人へと増えています。親子が離れて暮らすケースが増えるほど、相続に関する情報格差や手続きの負担が生じやすくなり、第三者による相続診断や初期相談のニーズは今後さらに高まると考えられます。

同じ2025年の調査では、遺言を書いている人の割合は全体で4.8%にとどまり、前回調査の4.1%からわずかに増加したものの依然として少数派です。年代別に見ると70代以上では約10人に1人が遺言書を作成しており、年齢が上がるほど生前対策への意識が高まる傾向がうかがえます。遺言書に書かれた内容としては「誰に何を相続させるか」が最も多い項目とされ、財産の管理や運用を信頼できる家族に任せる家族信託への関心も広がりつつあります。遺言や家族信託についての基礎的な相談も、相続診断士が担いうる初期対応のひとつです。

開業届は事業開始から1ヶ月以内、青色申告なら最大65万円控除も

相続診断士の資格を取得し、実際に個人事業主として独立準備を進める場合、資格取得とは別に押さえておくべき事務手続きがあります。会社員として勤めていた人が定年退職を機に独立する場合は、退職から14日以内に国民年金と国民健康保険への切り替え手続きが必要です。会社の厚生年金や健康保険から外れるタイミングを逃さないよう、退職前から手続きの段取りを確認しておくとよいでしょう。

事業を開始したら、税務署に個人事業の開業・廃業等届出書、いわゆる開業届を提出します。開業届は事業開始から1ヶ月以内に提出することとされており、届け出には12桁のマイナンバーの記載と、番号確認および本人確認の書類提示が必要です。開業届を提出しておくことで、最大65万円の特別控除が受けられる青色申告を選択できるようになる点は、老後の限られた収入の中で節税を図るうえで大きなメリットです。

このほか、事業内容によっては業種ごとの許認可申請、事業用の銀行口座開設、名刺やウェブサイトの準備なども必要になります。相続診断士としての活動は許認可が必須の業種ではありませんが、税理士や司法書士など提携予定の専門家への紹介動線や、相談者との連絡手段を事前に整えておくことで、資格取得後スムーズに活動を始められます。老後の独立準備は、資格の勉強と並行して、こうした事務手続きのスケジュールも早めに把握しておくことが望ましいといえます。

相続診断士単体での独立は難しく、既存キャリアとの掛け合わせが現実的

相続診断士は、実務経験なしでも受験資格の制限がなく、テキストと講義動画による学習だけで挑戦できる、比較的取得しやすい民間資格です。試験の難易度も高くなく、老後の学び直しや新しいキャリアの入り口として選びやすい点は魅力といえます。ただし独占業務を持たない民間資格である以上、資格取得だけで独立し安定した収入を得ることは難しいという現実も理解しておく必要があります。

老後に相続診断士を活かして独立準備を進めるのであれば、税理士や司法書士、弁護士など国家資格者とのネットワーク構築、これまでのキャリアや人脈を活かした集客の仕組みづくり、そして段階的に活動範囲を広げていく進め方が欠かせません。相続相談のニーズが今後も高まっていくと見込まれる中、相続診断士はその入口として、老後の新しい働き方を模索する人にとって現実的な選択肢のひとつになります。

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