相続診断士は、銀行や保険会社での実務経験を活かして定年後や在職中に副業として取り組みやすい民間資格であり、大相続時代の到来を受けて需要が着実に高まっている。一般社団法人相続診断協会が認定するこの資格は、合格率が90パーセント以上、受験料38,500円で、初学者でも3か月から6か月の学習で合格が狙える設計になっている。金融機関の現場で日々顧客と向き合ってきた人にとって、既存のキャリアに上乗せする形で取り組みやすい構造だ。
一方で、相続診断士は国家資格ではなく独占業務を持たないため、「意味がない」「本当に稼げるのか」という声もある。この記事では、2026年7月時点で公表されている情報をもとに、資格の中身、需要が高まっている社会的背景、銀行員や保険会社社員が資格を活かせる場面、収入の実態、独占業務がないゆえの限界、定年後のセカンドキャリアや副業として検討する際のメリットとデメリットを整理する。金融機関出身者が自分の経験と重ね合わせて判断できる材料としてまとめた。

相続診断士は相続診断協会が認定する民間資格で独占業務は持たない
相続診断士は、一般社団法人相続診断協会が認定する民間資格である。弁護士や税理士、司法書士のような国家資格とは違い、この資格を持っていなければ従事できない独占業務は存在しない。相続についての幅広い知識を身につけ、悩みを抱える人の最初の相談相手になれることを証明する立ち位置に近い。
協会が掲げるコンセプトは「笑顔相続の道案内人」だ。相続は財産の多寡にかかわらず家族間のトラブルに発展しやすく、家庭裁判所に持ち込まれる相続案件のうち約74パーセントが相続税のかからない遺産5000万円以下の家庭で起きているとされる。相続診断士は、こうした相談者に対して相続の全体像を整理し、必要に応じて弁護士、税理士、司法書士へとつなぐ橋渡し役を担う。
ここで押さえておきたいのが、相続診断士が自分で遺産分割の代理交渉や相続税申告書の作成、相続登記の代理申請を行うことはできない点である。これらはそれぞれの国家資格者に認められた独占業務であり、越境すると弁護士法や税理士法などに触れる恐れがある。この境界線を正しく理解しておくことが、副業や定年後の仕事として資格を活かす前提になる。
相続診断士の受験料は38,500円で合格率は90パーセントを超える
相続診断士試験は、コンプライアンス10問、民法の相続編15問、相続税15問、相続税の穴埋め12問、法定相続分3問、基礎控除2問、小規模宅地の特例3問という構成の選択式試験で、合計60問を制限時間60分で解く。100点満点中70点以上を取ると合格となる。
受験料は初回38,500円で、基本テキスト、WEB講義動画、受験料、資格認定料が含まれている。再受験の場合は16,500円だ。試験はCBT方式(コンピューターを使った試験方式)で実施され、申込日から21日目以降の日程で自分の予定に合わせて試験日を選べる。
合格率は90パーセント以上とされ、資格試験のなかではかなり易しい部類に入る。ただし丸腰で合格できる試験ではなく、初学者は3か月から6か月、すでに相続業務に日常的に触れている金融機関職員や不動産業従事者であれば1か月から2か月の学習期間が目安とされる。仕事を続けながら短期間で取れる資格として設計されている。
資格の有効期限は2年間で、2年ごとに更新用の確認テストに合格し、更新料として16,500円を支払う必要がある。取得して終わりではなく、一定の費用と手間をかけて知識を維持し続ける仕組みが組み込まれている。
上位資格として上級相続診断士も用意されており、土地の評価方法、事業承継、具体的な遺産分割の事例研究など、より実践的な内容が問われる。試験時間は90分と長く、○×形式、三肢択一、穴埋め方式を組み合わせた出題で、実務コンサル力が試される。定年後や副業として腰を据えて相続分野に取り組む場合、まず相続診断士を取り、実務経験を積みながら上級へ昇級するという段階的な道筋も現実的だ。
相続診断士と類似民間資格の違いは扱う範囲と実施団体にある
相続に関連する民間資格は相続診断士だけではない。相続アドバイザー、相続カウンセラー、相続鑑定士、遺言執行士など複数の団体がそれぞれ資格を発行しており、いわば乱立に近い状況だ。副業や定年後の選択肢として絞り込む前に、代表的な資格との違いを押さえておきたい。
相続アドバイザーは、銀行業務検定協会が実施している検定試験である。民法の相続関連規定、相続税の計算、銀行口座の解約手続き、不動産の相続登記手続きなど、金融機関の実務に直結した内容を扱う。銀行業務検定の枠組みに組み込まれているため、銀行員には馴染みが深い。
ファイナンシャル・プランニング技能士(FP技能士)は国家資格で、相続だけでなく年金、資産運用、保険、不動産、住宅ローンなど暮らし全般のライフプランニングを幅広く扱う。相続診断士との違いは、範囲の広さと国家資格である点だ。難易度で並べると、FP3級、相続アドバイザー3級、FP2級、相続診断士や相続アドバイザー2級、CFP(FP1級相当の上位資格)という順に難しくなっていくとされ、相続診断士は取り組みやすい部類に位置づけられる。
これらの資格には共通の制約もある。いずれも独占業務を持たず、個別具体的な法律相談や税務相談には応じられない。だからこそ、どれを選ぶかというよりも、「自分がすでに持っている知識や実務経験に対して、どの資格がもっとも効率よく専門性を補強できるか」で判断するのが実際的だ。銀行実務の延長として相続を扱いたいなら相続アドバイザー、暮らし全般の相談窓口として活動したいならFP、相続に絞って体系的な知識を短期間で得たいなら相続診断士、というように使い分ける人が多い。複数を組み合わせて専門性の幅を広げるやり方もある。
3メガバンクは2024年10月までに社外副業を全面解禁した
銀行員や保険会社社員が在職中から相続診断士としての知識を副業に活かせる環境は、以前と比べて格段に整った。新生銀行が2018年4月に社員の副業・兼業を解禁したのを皮切りに、みずほフィナンシャルグループは2019年から副業制度を導入し、2023年度時点でおよそ800人近くの社員が制度を利用しているとされる。三菱UFJ銀行は週1〜2日程度を社外で働ける仕組みを整え、三井住友銀行も2024年10月から全従業員を対象に社外副業を解禁した。この時点で3メガバンクすべてが社外副業制度を持つ形になった。
ただし、副業を始めるには勤務先の兼業規定に沿った事前届出や審査が必要になる。多くの金融機関では、人事部門が顧客情報や社内情報の漏洩リスク、本業と副業の利益相反、過重労働にならないかといった観点を審査する。相続診断士としての活動は顧客の資産や家族関係というセンシティブな情報に触れやすい仕事のため、情報管理と利益相反の観点について勤務先ルールを丁寧に確認したうえで進める必要がある。
定年退職後になれば、こうした兼業規定の制約から離れて、より自由に活動を組み立てられる。現役時代に培った人脈と信用を活かすためにも、退職後を見据えて在職中から資格取得の準備を進めておくのは、金融機関出身者にとって取り組みやすい戦略だ。
相続診断士の年収は資格単体では成立せず既存キャリアへの上乗せが現実的
相続診断士として独立し、資格単体で生計を立てているケースはごく少数で、収入や年収の統一的なデータは公表されていない。多くの資格取得者は既存の職業に対する付加価値として相続診断士の知識を活用しており、資格取得者のうちおよそ半数が金融・保険関連の業種に従事しているというデータがある。
たとえば不動産業界では、相続関連の知識を持つ担当者の年収は400万円から600万円程度とされる。一般的な不動産業界の給与水準と比べて遜色ない、あるいはやや高めの水準にあたる。銀行や保険会社では相続診断士の資格そのものが直接給与に上乗せされるケースは限られるが、相続関連の提案力が営業成績や顧客からの紹介につながる形で、間接的に収入を押し上げる可能性はある。
副業として活動する場合も、相続診断士という肩書き単体で継続収入を得るというよりは、セミナー講師料、士業事務所からの相談対応の紹介料、保険や金融商品の提案に付随する成果報酬などを既存の収入源に上乗せする形が現実的なイメージになる。「相続診断士を取れば高収入が手に入る」という発想ではなく、既存のキャリアや人脈を土台にした収入の底上げ策として位置づけたほうが、実態に近い。
相続診断士の副業需要が高まる背景は年間50兆円規模の資産移転
相続診断士への注目が高まっている最大の背景は、日本が本格的な大相続時代に入ったことだ。年間で約50兆円ともいわれる規模の遺産が世代を超えて動くとされ、この規模は今後さらに拡大していく見込みだ。
流れを加速させているのが、いわゆる2025年問題である。1947年から1949年生まれの団塊の世代、およそ800万人が2025年までに後期高齢者(75歳以上)となり、日本社会は本格的な超高齢社会に入った。国税庁の統計によれば、2014年から2024年までの10年間で被相続人(亡くなって財産を残す人)の数は1.2倍以上に増えており、相続の発生件数が構造的に増え続けている。
さらに資産の偏在も見逃せない。日本国内の金融資産の6割以上を、世帯主が60歳以上の世帯が保有しているとされる。今後10年から20年のうちに、この巨額の金融資産と不動産が高齢の親世代から子世代・孫世代へと大規模に移っていく。金融機関や保険会社にとっては、相続関連のニーズに応えられる人材の重要性が飛躍的に上がることを意味している。
加えて空き家問題や不動産の相続登記義務化など、相続に付随する社会課題も年々表面化しており、「相続について何をどう相談すればよいかわからない」という一般消費者の潜在的な不安はきわめて大きい。専門家一歩手前の立ち位置で、わかりやすく相談に乗ってくれる相続診断士のような存在が果たす役割は、今後さらに大きくなっていくとみられる。
銀行員と保険会社社員が相続診断士を活かす具体的な場面
金融機関や保険会社の現場では、すでに相続診断士の資格を積極的に活用する動きが広がっている。
生命保険業界では、相続対策や生前贈与の観点から保険商品の必要性や利便性を説明できることが、顧客からの信頼度向上に直結する。相続診断士としての知識があれば、単なる保障内容の説明にとどまらず、「なぜこの保険が相続対策として有効なのか」「生前贈与や納税資金準備の観点から見てどんな意味があるのか」という一歩踏み込んだ提案ができる。相続は多くの人にとって専門的でわかりにくいテーマのため、噛み砕いて説明できる担当者は、顧客にとって相談してよかったと感じてもらいやすい存在になる。
銀行でも状況は似ている。窓口や渉外担当者が相続の基礎知識を持っていれば、預金の名義変更や相続手続きの相談を受けた際に的確な初期対応ができる。相続をきっかけとした資産運用の相談や、次世代への資産承継に関するコンサルティングは、金融機関にとって収益機会にもつながりやすい分野だ。行員に相続診断士の取得を推奨する金融機関も少なくない。
すでに保険業や銀行、証券会社などの金融業、あるいは不動産業や葬儀業といった相続に関連の深い業種に就いている人にとって、相続診断士は今の仕事の付加価値を高めるための実務資格として位置づけられる。難易度がそれほど高くない一方で、顧客との会話の質を明確に変えられる点に、実務上の値打ちがある。
定年後の相続診断士はFPや宅建士との組み合わせで専門性が広がる
長年銀行や保険会社に勤めてきた人が定年退職後のセカンドキャリアや在職中の副業として相続診断士を検討する意義は、社会的背景を踏まえると自然に浮かび上がる。
金融知識、顧客対応力、法人・個人問わず幅広い世代とのコミュニケーション経験は、相続診断士としての活動と相性がよい。相続の相談は単なる知識提供だけでなく、家族関係や感情面への配慮も求められるデリケートな仕事だ。長年顧客の資産や生活設計に向き合ってきた元金融機関職員は、この点で大きなアドバンテージを持つ。
セカンドキャリアの文脈では、定年後に役立つ資格としてファイナンシャル・プランナー(FP技能士)や宅地建物取引士(宅建士)がよく挙げられる。相続診断士はこれらと組み合わせることで相乗効果が出やすい。たとえばFPとしての資産設計の知見に相続分野の知識を重ねると、「老後の資産運用から相続・資産承継まで一気通貫で助言できる相談相手」としての専門性を打ち出せる。
副業の働き方も複数考えられる。現役の銀行員や保険会社社員が会社の許可を得たうえで担当業務の延長線上で知識を使うケースもあれば、定年後に相続診断士としての肩書きを持ちながら、地域の士業事務所や不動産会社と提携して相談会やセミナーの講師を務める働き方もある。相続診断士は「笑顔相続の道案内人」として、専門家同士のネットワークの中で相談者と弁護士・税理士・司法書士をつなぐハブの役割が期待されており、定年後に人脈と経験を活かして地域に根ざした相談窓口的な立ち位置を築くキャリアの描き方もできる。
ただし、資格取得だけで案件が自然に舞い込んでくるわけではない。多くの類似士業と同じく、相続や遺言の相談は、セミナーや勉強会の開催、ホームページやブログでの情報発信といった地道な集客活動があって初めて相談につながる。特定の相談テーマ(たとえば実家の空き家問題や、保険を活用した納税資金対策など)に絞って専門性を打ち出し、士業とのネットワークを築いて紹介を受けられる体制を整えていくのが、副業として軌道に乗せる現実的な道筋だ。
相続診断士は独占業務を持たず専門家ネットワークが不可欠になる
副業や定年後の仕事として相続診断士を検討するうえで、いちばん大事なのは「できないこと」を正確に理解しておく点だ。
相続診断士は、弁護士のように遺産分割協議で紛争解決の代理人になれない。税理士のように相続税申告書を作成して税務署に提出することもできない。司法書士のように不動産の相続登記を代理で申請することもできない。いずれも国家資格者にだけ認められた独占業務であり、無資格でこれらを行うと法律違反になる恐れがある。
相続診断士ができるのは、あくまで相続に関する一般的な知識をもとに相談者の状況を整理し、「どんな専門家に、どのタイミングで相談すべきか」を助言することだ。役割は限定的に見えるかもしれない。ただし、多くの人が「そもそも誰に相談すればいいのかわからない」段階でつまずいているため、この初期整理の役割には大きなニーズがある。相続診断士は、専門家に相談する一歩手前のハードルを下げる存在として機能している。
したがって、活動する際は日頃から地域の弁護士、税理士、司法書士、不動産会社との連携体制を築いておく必要がある。単独で完結する仕事ではなく、専門家ネットワークの一員として機能して初めて、相談者にとって値打ちのあるサービスを提供できる。この点を押さえないまま資格を取っても、活かす場所を見つけにくい。
相続診断士のメリットは低コスト取得、デメリットは維持費の継続発生
相続診断士の取得を検討する際、メリットとデメリットの両方を冷静に見ておきたい。
メリットとしては、短期間・低コストで相続に関する体系的な知識を身につけられること、金融機関や保険会社での実務で顧客対応の質を高められること、今後拡大が見込まれる相続市場で相談の入り口としてのポジションを築ける可能性があることが挙げられる。合格率90パーセント以上、CBT方式で日程調整もしやすく、仕事を続けながら取りに行きやすい。
デメリットとしてよく指摘されるのが維持コストだ。2年ごとに更新用の確認テストを受け、16,500円の更新料を払い続ける必要がある。合格しても弁護士や税理士のような独占業務が得られるわけではないため、「資格を取っても具体的に何ができるようになったのか実感しにくい」という声もある。実務で相続に関わる機会がほとんどない人が資格取得そのものを目的にして取った場合、更新のたびに費用と手間がかかるだけで、費用対効果を得にくい。
したがって、相続診断士が向くのは、すでに銀行、保険会社、不動産会社、葬儀関連業などで相続に関わる相談を受ける機会がある人、あるいは定年後にそうした業界的な人脈や実務経験を活かして相談業務に携わりたいと考えている人だ。逆に、相続業務に直接関わる予定がなく単に資格を増やしたいという動機で取る場合は、更新コストを踏まえたうえで慎重に判断したほうがよい。
相続診断士は金融機関出身者の定年後の副業として現実的な選択肢になる
相続診断士は国家資格ではないものの、団塊世代の高齢化と巨額の資産移転が同時進行する大相続時代のなかで、社会的な需要が着実に高まっている資格だ。特に長年銀行や保険会社で顧客の資産や生活設計に向き合ってきた人にとって、実務経験と相続診断士としての体系的な知識を組み合わせれば、定年後のセカンドキャリアや在職中の副業として活躍できる可能性がある。
一方で、相続診断士はあくまで相談の入り口を担う存在であり、法律・税務・登記といった専門業務そのものは行えない。この限界を理解し、弁護士や税理士、司法書士とのネットワークを構築しながら活動することが、資格を実際の仕事や副業につなげる鍵になる。2年ごとの更新料など維持コストが発生する点も踏まえたうえで、自分がどんな形で相続に関わっていきたいのかを明確にしてから取得を検討したい。
金融機関出身者ならではの信頼感と実務知識を武器に、相続診断士という資格を自分のキャリアにどう組み込むか。それを見極めることが、定年後の新しい働き方を考えるうえでの重要な一歩になる。資格そのものが仕事を保証してくれるわけではない。取得後すぐに大きな収入が入ることを期待するのではなく、身近な家族や知人の相続相談に無理のない範囲で応じることから始め、少しずつ実績と紹介の輪を広げていく地道な姿勢が、結果的に長く続けられる副業へとつながる。
大相続時代の入り口に立つ今、これまでのキャリアを棚卸ししたうえで、相続診断士という選択肢が自分の人生の次の一歩にふさわしいかどうか、じっくり見極めてみたい。









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